戦時演芸慰問団「わらわし隊」の記録 芸人たちが見た日中戦争

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「戦時演芸慰問団「わらわし隊」の記録 芸人たちが見た日中戦争

早坂隆著 中央公論社 本体2200円 2008年7月初版刊行

つい先日、お気に入りのマニアックな古本屋に寄った時に見つけた本。

目に付いたので手に取ってパラパラと読んでみたら、
驚くべき記述が見つかったので購入した次第。

もちろん古本なのでとてもリーズナブルな値段だったのは言うまでもない。

この本には戦時中の日本軍の様子が、
今まで聞いた事もない全く別の視点から描かれていたのだ。

早い話、落語家や漫才師達が戦地に派遣されて、
「わらわし隊」として兵士の慰問団をしていた人達の記録となる。

当時、どのような興業をいつどこでやっていたのか。

かなりの点で分かっている。

これは歴史的事実を調査する際における第一級資料と言ってもいいはずだ。

もちろん、その判断は素人ではなく、
専門の歴史学者による複数のチェックが必要なのは言うまでもない。

さて、この本の中には驚くべき記述がある。

それは本の帯にチラリと書かれている某重大事件についてなのである。

この事件については、現在でっち上げであると堂々と主張する日本人がいる。

反対に史実として確定していて、修正するのは許されないと考える日本人がいる。

しかしこの対立構造は全く意味が無い。

前述したように、どちらの立場であっても、
指摘された問題に対して、複数の歴史の専門家が検証しているのかどうかこそが重要だからだ。

専門家の検証がされていないものに対して、
素人が「あった」「なかった」と言っても始まらない。

さて、この本の中では、
某重大事件が起こっている時の某市の記録が載っているのである。

極東軍事裁判において某アメリカ人が証言した、
「1日あたり1000件の強姦事件が起こっていた」とされる某市の記録である。

当時、某市にいた日本兵は約4000人だったのが確認されている。

この数で某市の警備をしていたことになるのだが。

実はこの期間に「わらわし隊」が連日公演を行なっていたのが判明している。

国民大会堂が主に使用されていたそうなのだが。

ここの収容人数・・・なんと2500人。

現在の歌舞伎座よりも巨大なホールなのである。

つまり、約4000人の兵士のうち2500人が、
要するに日本軍兵士の実に62.5%が毎日毎日わらわし隊の公演を見て、
腹をかかえて笑っていた事になるのである。

もちろん、だからと言って某事件が無かった証拠にはならない。

しかし逆に言えば、重大な証言者として知られる1人のアメリカ人の証言をもってして、
某事件があったと言う証拠にもならない。

もちろん日本兵の証言もある。

だが、一個人の証言と言うものは、
大切ではあるが、証言だけで有罪無罪が決められるのは明らかにおかしい。

重要なのはこの場合、あくまでも専門家による検証なのだ。

ただ、この本を読むと(まだ拾い読みの段階ではあるが)、
一般的に日本人が想像している当時の某市の感覚が大きく崩れるのは間違いないだろう。

どちらが正しいのかは分からない。

だが、もしその事件が事実であるのならば、
組織的で広範囲に及ぶと思われる某事件の最中に、
その張本人達の62.5%は、連日のように国民大会堂などに集まり、
演芸を見て大爆笑していたのも事実として認識しないといけないのである。

もちろん戦時下と現在を比較して迂闊な事を言ってはならないが、
それでも例えば寄席に行って大爆笑した後の感覚と言うのは、
体験した者にしか分からないだろう。

少なくとも、非道な事をしたくはならない。

この本はそういう意味でかなりショッキングな内容だった。

終わり