「三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち」歌舞伎座(東京・東銀座)

イメージ 1


イメージ 4


令和元年6月1日

歌舞伎座(東京・東銀座)六月大歌舞伎

初日 夜の部

「三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち

最初に非常に恥ずかしい事を告白しておきます。

当初、私はこの演目を観るつもりは全くなかったのです。

ところが直前で三谷幸喜 作・演出と知り、
急遽行った次第なのです。

ところがところが・・・ワタクシ・・・

そもそも17世紀脳を持っているため、
現代日本のドラマや映画を余りよく知りません。

当日券の行列に並んでいる時に気付いたのです。

私は重大な勘違いをしていた、と。

映画≪Shall we ダンス?≫の監督は周防正行氏ですが、
それを三谷幸喜氏だとばっかり思い込んでいたのです。

あの≪Shall we ダンス?≫の監督なら相当期待できるな、
これは行かないと、と勇んで行って、行列中にチェックしてビックリ。

「おれ、三谷幸喜の作品、全く観たことがなかった」と。(爆)

でもまあ、なりゆきだし、と観たのであります。(苦笑)

この作品は、みなもと太郎原作の歴史マンガ「風雲児たち」を、
三谷幸喜が作・演出した、実話に基づく新作歌舞伎です。

時代は江戸時代後期。

まだ鎖国が続いている日本ですが、
列強がいよいよ日本に興味を持ち出した危ない時代です。

そんな時、伊勢の船頭である大黒屋光太夫松本幸四郎)一行17人の乗った船が難破しロシアに漂着し、
様々な苦労を経て日本に戻るまでのストーリーとなっています。

日本史の教科書でもお馴染みです。

劇は第一~三幕までの三部構成になっています。

第一幕は難破した船が漂流し、何とか陸地に着いたところで終わり、
第二幕以降は日本に帰るための苦労編です。

最初、幕が上がるといきなり尾上松也が黒縁メガネをかけたスーツ姿で登場します。

それだけで歌舞伎座内は大爆笑なのですが、
色々と劇に必要な前知識を教えてくれます。

徳川家康は臆病者で、天下を取った後、
如何に攻められないようにするか、という政策の一環で、
船は1本マストしかダメとしたため、
難破する船が続出していた、とか。

途中で「何か質問はありますか?」と客席に言ったら手を挙げた人がいて、
何を質問するのかと思ったら・・・・・

尾上松也に向かって「誰ですか?」と。

歌舞伎座内、超超大爆笑。

そうして松也による口上が終わるといよいよ劇が始まります。

実は・・・あくまでも・・・個人的な感想なのですが、
第一幕は前半こそ面白かったのですが、
後半からダレてしまい、ちょっと眠ってしまいました。(苦笑)

そして幕間では「こりゃもしかしてダメダメ歌舞伎か?」と正直思ってしまいました。

ところが第二幕目以降、展開が一気に変わり、急速に面白くなりました。

松本幸四郎市川猿之助片岡愛之助の若手3人の演技が素晴らしいこと素晴らしいこと。

この3人の歌舞伎役者は悲劇も喜劇も出来る才能を持っていると感心し、
中村勘三郎の演技を思い出してしまいました。

優れた役者は人の感情を自由に操れると思っています。

本当に泣き笑いさせられます。

今回の三谷かぶき。

自分が観ているのが悲劇なのか?喜劇なのか?分からなくなるくらいでした。

ロシアの地で帰国出来ないまま、現地の人の援助でギリギリの生活をしている光太夫達。

次々と仲間が死んで行きます。

たらい回しにされながら、
どんどん日本から離れ、最終的には壮絶な旅をしながらサンクトペテルブルクまで行き、
やっと時の女帝エカテリーナ二世(市川猿之助、二役)に謁見でき帰国の許可を願い出ます。

17人だった仲間はその時点で5人にまで減っていました。

しかし、うち1人(市川猿之助)は怪我の悪化により片足を切断。

さらにロシア人の陰謀により改宗したため帰国は出来なくなります。

もう1人(片岡愛之助)はロシア人の恋人が出来て、
同様に改宗して帰国を諦めます。

ちなみにロシア人女性が登場しますが、
昔の民族衣装を着ていて、
マトリョーシカみたいでギョッとします。(写真参照。笑)

イメージ 2


最初の方で若い男(市川染五郎)もロシア人女性と恋愛関係になるのですが、
女性を捨てます。

捨てられた女性が嘆いていると、友達の女性が登場し、さらに父親らしき人物も現れて、
ロシア語らしき言葉で妙な会話をします。

慰めているのか?怒っているのか?全く分からないのですが、
この光景がメチャクチャ面白く歌舞伎座内大爆笑。

言葉は分からなくても演技だけで笑わせる歌舞伎役者の力量は大したものかと。

さて、エカテリーナ二世は光太夫に生涯困らない金と豪華な住まいを与えるから、
日本語教師としてロシアに残れと言います。

しかし光太夫は拒絶します。

日本に帰りたい、金も名誉も要らない、と。

すると女帝の側近ポチョムキン松本白鸚)が、ロシアは日本に興味があり、
日本語教師が必要であり、これまでロシアに来た日本人で帰国出来た者はいない、
金を素直に受け取れと脅します。

この時の松本白鸚の演技。

ハンパなく憎たらしく、若手の演技が霞むほどのド迫力があります。

しかし光太夫の熱意に負けたエカテリーナ二世は帰国を許します。

反対するポチョムキンに向かってエカテリーナ二世は言います。

「光太夫を帰国させたからといって、我がロシア帝国は揺るがない!!」

素晴らしい大見得を切って二役をこなした市川猿之助は退場。

その後、ポチョムキンは光太夫に言います。

「オマエが日本を愛しているのと同様に私もまたロシアを愛してこその言葉だったのだ。
 分かってくれ。」と。

まあ、ともかく白鸚の演技。

悪者から一気に立派な愛国者になって退場。

凄いのなんの。

こうして3人にまで減った光太夫一行は日本に帰国します。

笑いあり、涙あり。

喜劇と悲劇が交錯しながら巧みに進むストーリー。

幕が閉まった後、拍手が鳴り止みません。

歌舞伎座で初めて見たカーテンコール。

再び開いた幕。

するとスタンディングオベーションが。

私も立ち上がってしまいました。

繰り返すこと3回。

素晴らしい舞台でした。

終わり



余談:

この歌舞伎では通常の下座音楽以外にロシア民謡なども使用され、
さらに浄瑠璃義太夫)まで登場します。

文楽に出てくる唸るような唄と三味線のアレです。

非常に効果的な役割をしていました。

そして帰りがけに歌舞伎座の階段を下りていたら、若い白人のカップルが前にいました。

ロシア語を話していました。

彼らにもかなり面白かったようで楽しそうに何やら語っていました。

イメージ 3