歌舞伎座エピソード:筋金入りの爺さん

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歌舞伎座エピソード:筋金入りの爺さん」

歌舞伎座(東京・東銀座)、4階一幕見席。

この場所は歌舞伎座の指定席での観劇とは違い、
1~3階指定席とは行き来が出来ない独立した存在となっている。

今時珍しい自由席だが、安く観劇が出来るため、
初めての人や外国人の比率が非常に高い。

だが、そんな中に混じって「数をヤる筋金入り」もかなりいる。

この種の人達は高級な指定席に出没する人達とは何かが根本的に違っているように感じている。

そして歌舞伎は江戸時代からずっと続いているため、
この趣味を持つ者には「とんでもない高齢者」が普通に大勢いる。

昨日、私は夜の部を一幕見の良い席で観ようと思い早目に歌舞伎座に着いた。

ちょうど午前の部のチケットが間もなく販売されるところで大勢の人が行列を作っていた。

チケットが販売され行列が無くなると一番前にかなり高齢のお爺さんが座っていた。

順番的にその横に私が座ることになった。

お爺さんは私に話し掛けてきた。

「やはり3幕目からですか?」と。

「いえ、夜の部なんです。」と答えたら、
「それはそれは凄い!!今から夜の部に並ぶとは。」と驚いていたが、
その後、非常に興味深い事を語り出した。

「私はもう80歳を超えていましてね。

 あと何回歌舞伎を観られるか分からないと思っているんですよ。

 こうなると自分が一番観たい演目だけを観るようにしているんです。

 今の私は夜の部のような新作歌舞伎はもう観ることが出来ません。

 新作がダメだと言っているんではないんです。

 自分が若い頃からずっと観て来た役者は今や大御所になってます。

 そういう名人達の≪型≫を観たいんです。

 それが一番観たい。」

う~ん、と感じ入った私は、
「なるほど、だから石切梶原と封印切なんですね。」
と言ったらお爺さんは大きく頷いていた。

私が横で「かぶき手帖2019」で役者のチェックをしていたら、
「あ~竹三郎はねぇ~」など色々教えてくれた。

歌舞伎の世界には「團菊じじい」という言葉がある。

これは昔の團十郎菊五郎が最高で今はダメだと主張する年寄りを揶揄する言葉となる。

私は團菊じじいにだけはなりたくないと思っていたが、
今回出会ったお爺さん。

かなりカッコいいと思った。

新しいものは新しいものとして認めているが、
今の自分が心から欲しているものに正直に生きている。

決して他人を攻撃しようとはせず、
己の欲するものを求めてかなりの高齢にも関わらず歌舞伎座に1人でやって来るお爺さん。

そして求めているものが名人の≪型≫。

いくら何でもシブ過ぎる、と超青二才の私は思った次第。(苦笑)

果たして晩年の自分は何を求めるのか???

歌舞伎趣味の世界は恐ろしい。

終わり


余談:

このお爺さん、しばらくしたら、
「ちょっと席をお願いします。築地まで買い物に行って来ます」
と言って出かけて行った。
(一幕見席の行列では一声後ろの人に掛けたら時間まで戻るならOK)
昼ご飯を買いに築地?
どこまでシブい、と感心した。
江戸っ子だね~♪♪