嫉妬心を抱く時

普段の私は人を羨ましいと思ったり、嫉妬心に駆られる事は先ずない。

もちろん、好きになった女性が他の男性と楽しそうに話していたら嫉妬心は抱くだろうし、
お金の無い時にお金持ちを見れば羨ましいとは思うが、別段激しい嫉妬心は持たない。

素晴らしい料理を食べている人を見ても「通風になるぞ!?」と逆に心配したりする。

実際、周囲に通風の人は多いし。(笑)

ところが唯一・・・・・

激しい嫉妬心を抱いてしまう世界がある。

それは・・・バロック音楽古楽器演奏の世界だ。

ここ30年以上、私はバッハの音楽にとり憑かれている。

教会カンタータ全集もコレクションに当然入っているし、
現在、聴けるバッハの音楽はほとんど全て収集している。

そして、若い頃はギターを通じてバッハの演奏の世界に踏み入ろうと試みた。

だが・・・私には才能も根気も無かった。

単純な音符構成のリュート組曲第1番第5曲をマスターするのにどれほどの時間をかけたことか・・・・・

さらに結婚やら離婚やら育児やらで音楽の世界から遠ざかっていた。

ここ5年ほど、急速に音楽が聴ける環境が整ってきて、昔を思い出している。

今、つくづく私の音楽、それもバロック音楽に対する熱情が、
自分でもびっくりするほど大きい事に驚嘆している。

先日、ブロ友の演奏会に行った時、古楽器を演奏する人達を見て、
感動すると同時に激しい嫉妬を感じた。

複雑な音符構成を持つバッハの音楽を、自分達で演奏し「バッハ」にする人達。

アマデウス」と言う映画がある。

モーツァルトに嫉妬する宮廷音楽家サリエリの話だ。

自分のなりたかった音楽家になり、有頂天になっていたサリエリ

だが、そこに天才モーツァルトが現れる。

自分の音楽、密かに想いを寄せていた恋・・・それらを(映画の中では)下卑たモーツァルトに叩き潰される。

しかし、モーツァルトの音楽を理解する耳だけは、神はサリエリに与える。

サリエリは激しい憎悪を抱き、神への反逆を誓う。

もう晩年のモーツァルト・・・人気がなく、すぐに打ち切られてしまうオペラ「ドン・ジョバンニ」。

観客もまばら。

だが、サリエリは全ての公演に出かけ、鑑賞をする。

モーツァルトに言う。「オペラの最高傑作だ。」と。

男の悲しいまでに激しい嫉妬。

なんとなく私はサリエリの気持ちが分かる。

狂おしいまでに好きなバッハの音楽。

だが、その楽譜を前にすると自分の無力さに打ちひしがれる。

それを易々と演奏する人達に私はサリエリの気持ちを抱いている。

音楽とは・・・バッハとは・・・それほどまでに私の心を捉えている。

終わり