「ラファエル前派展」森アーツセンターギャラリー(東京・六本木ヒルズ52階)

2014年2月22日(土)

「テート美術館の至宝 ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」

森アーツセンターギャラリー(東京・六本木ヒルズ52階)



イメージ 1




イメージ 2




何がどう面白いのかと言うと。

ともかくエロい。

裸体画は1枚もないけど超エロい。(笑)

今回の展示会に行く前は、通常の展示会と違って事前に作品だけでなく、
画家達の生き様も知ってから行った方が10万倍楽しめる。

ラファエル前派とは何か?などと言う理屈よりも何よりも、
才能溢れる若き画家達が集まり、既存の権威に反抗して生み出されたイギリスの一派。

美青年集団。スキャンダラス集団。

描く絵もヤバけりゃ私生活もヤバい。

しかも時代はヴィクトリア朝

イケイケのイギリス。


そんな時、男達は何を求めるのか???

「美」を。

「美しい女」を。

そのために彼らは何をしたのか???

そして女達はどうなったのか???

少女マンガよりもリアルでヤバい世界が展開した。

美の追求を極めて行くと、時に醜悪の極みとなる気がする。

そしてそれは恐ろしく魅力的に見える。

それが「ラファエル前派」かと。

ほぼ同時代にパリで起こった印象派とはまるで異質なのが興味深い。

さ~て。

富、名声、教養、これらを手に入れた男達は何を求めて行くのか。

何時の時代でも変わらない。

一盗二卑。

つまり、人妻とのセックスが一番。

次に卑しい女・・・召使との行為。

そう、時代はヴィクトリア朝で階級社会のイギリス。

ご想像できるかと思う。

一見するとラファエロよりも前の自然な姿を描こうと権威に反抗した画家達ではあるが。

自然な姿・・・つまり・・・モデルは身近な人を使う。

妻や恋人、はたまた不倫相手。

超絶的な美女を相手に繰り広げられた不適切な関係。(笑)

仲間であるはずの一派内での不倫、挙句に奇妙な3人での生活・・・・・

あるいは街で評判の下層階級の美人娘を我が物とするために奔走したヤツ。

こういった背景を知って絵を眺めると実に楽しい。

古典がどうした???、と。

そもそもラファエル前派とは西洋絵画のお手本とされるラファエロに反旗を翻した傲慢な連中なのである。

宗教画を描いたら、時の大文豪チャールズ・ディケンズすらも酷評したという代物。

それほど当時の人達にとっては冒涜的な存在ですらあったヤツら。

この展示会。

楽しくない訳がない。

ともかく、事前調査をしてから行くべきかと。

もう堪らない世界が展開してくれるはず。

特に人間関係図は必読である。

誰と誰がひっついて、どんな不倫をして、その絵画のモデルは誰で、と。

さあ、乱れた世界へ、いざ。(笑)



イメージ 3

「オフィーリア」
ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829-96)
1851-52年
油彩・カンヴァス 76.2×111.8cm

昔、イギリスにちょっとだけいた頃、様々な場所を観光する機会に恵まれた。

あろうことかテート美術館(当時はテートギャラリーと呼ばれていた)に行ったのか記憶が定かではない。

けれども、この作品だけは何となく覚えている。

衝撃的な絵だと思う。

実物のタッチは非常に繊細で緻密でリアルで、かつ大胆だ。

息をのむような作品だ。





イメージ 4

マリアナ
ジョン・エヴァレット・ミレイ
1850-51年
油彩・板(マホガニー) 59.7×49.5cm

セクシー。

裸体画よりもエロいと思う。

男を魅了するエロチックな女性の持つ雰囲気が良く描かれているかと。

しかし、題材としては持参金が無くなり許嫁に捨てられそうになっている女性らしい。

何となくアンニュイな感じが個人的には大変好み。





イメージ 5

「良心の目覚め」
ウィリアム・ホルマン・ハント(1827-1910)
1853-54年
油彩・カンヴァス 76.5×55.9cm

この女性は財力のある男性に囲われている女性だ。

このままではいけない、と良心が目覚めた瞬間を見事に表している。

男の目つきは好色な上流階級の下卑たソレである。

「ぶらぶら美術・博物館」というテレビ番組で知ったのだが、
この絵の下にご注目。

女性の運命を暗示している、と。

左下には猫に捕らえられた鳥。右下には絡まった毛糸。

つまり、もう逃げられないのだ、と言う暗示が・・・・・

時代から言っても、もうどうする事も出来ないのであろう・・・・・

ちなみにピアノに置いてある楽譜。

この曲まで解明されている。

男はその曲を演奏してしまい、それにより女性は良心に目覚めてしまった、と。

逆効果であったが、ピアノを演奏しているのが男性であるのにご注目。

男性は上流階級で女性はそうではない。

教育を受けた男が教育を受けていない女性を愛人にして意のままにする。

そう、一盗二卑の「二」を行なっている場面である。





イメージ 6

「過去の追想
ジョン・ロッダム・スペンサー・スタンホープ(1829-1908)
1858-59年
油彩・カンヴァス 86.4×50.8cm

この絵は娼婦を描いたとされている。

窓から見えるのは当時の発展して行くロンドンの街が見える。

ウォータールー橋も。当時、ここから身を投げる女性も多かったとか。

急速に発展して行く国の歪みは弱者を徹底的に痛めつける。





イメージ 7

「プロセルピナ」
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828-82)
1874年
油彩・カンヴァス 125.1×61cm

ロセッティ・・・超美青年。

こんな才能溢れる画家が美しい女性に目をつけ、描く。

スキャンダルが起きない方がおかしい。(笑)





イメージ 8

「ペグウェル・ベイ、ケント州-1858年10月5日の思い出」
ウィリアム・ダイス(1806-64)
1858-60年
油彩・カンヴァス 63.5×88.9cm

この作品も、もし「ぶらぶら美術・博物館」を見ていなかったら個人的に非常に重要な事を見逃していたであろう。

作品自体の完成度も素晴らしいのであるが。

絵の下方右端に男がいる。上を見ている。何を見ているのだろうか?

この男は絵を描いた本人ウィリアム・ダイス自身と言われている。

絵の中央の上方をよく見ると。

何と「彗星」が描かれている。

これは1858年に現れた19世紀で最も明るいと言われたドナティ彗星だ。

昼間でも見えている・・・・・

素晴らしい作品であると思う。





イメージ 9

「ローゼンラウイ氷河」
ジョン・ブレット(1831-1902)
1856年
油彩・カンヴァス 44.5×41.9cm

これは見逃せない絵画かと。

氷河を描いた風景画であるがタッチが絶妙。

天才的な写実絵画。

ここまで地層や石を表現できるのか?と驚嘆する。




余談:

この展示会の作品を鑑賞して特に感じたのは教育を受けられなかった当時の女性達が落ちて行く悲劇についてだった。

強い男達の玩具にされていた下層階級の女性達。

街で評判だった下層階級の美人娘を我妻に迎えようとしたラファエル前派の画家の1人。

彼はその女性に教育を施す。

教育の重要性を認識していたのだと思う。

「愛人」に教育は要らないが「妻」には教育が必要である、と。

支配したいと欲する人間にとって、被支配者は無知で従順でなくてはならない。

女性が虐げられている時代や国や家庭は必ず女性への教育を嫌う。

さて明治時代、日本に進出してきた欧米列強。

この時、日本の代表者でもあった伊藤博文は大変な衝撃を受ける。

欧米列強の連中は正式な場所に自分の妻を同伴する。

当然それに倣い、伊藤も自分の妻を伴ってパーティへ参加した。

その時に伊藤は欧米人の上流階級の婦人達の教養の高さと洗練された物腰に驚嘆する。

伊藤博文ほどの妻ですら・・・残念ながら当時の日本においては女性には教育は必要ないと言われていたのである。

伊藤は我が妻の無教養さを酷く恥じる。

そして悟る。

このままでは欧米列強には絶対に勝てない、と。

性教育の必要性を思い知らされ、急遽、渋沢栄一らと共に日本人による初めての女学校が誕生する。

それが東京女学館だ。

ちなみに日本で一番古い女学校は宣教師らによって建てられた横浜のフェリス女学院である。

さて、伊藤博文はその後、自分の妻に教養を身につけさせるため、
岐阜に妻を送り、そこで教育を受けさせた。

岐阜にいた先生は明治の三大女性教育者の1人、下田歌子先生だった。

下田歌子先生は貴族の女性のために学習院女子を作られたが、
その後、一般の女性のために実践女子学園と順心女子学園(現 広尾学園)も設立している。

教育はつくづく大切だと思っている。

特に娘を持つ父親として、女性教育は極めて大切であると痛感している。

そんなことを感じた展示会だった。





超余談:

美術展に行くと展示会の内容により客層がまるで違うので大変興味深い。

特に女性が全然違う。

そもそも美術展に来る女性は美に関心があるため、オシャレで綺麗な人が多い。

中でも六本木や銀座周辺の美術展に来る女性客はオシャレ度が頂点に達しているように思う。

個人的に六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリ―と森美術館の客層が面白かった。

オシャレ度が最強だったのは「フランスの現代ポップアート展」。

おそらくはモデルと思われる若く超美しい女性のオンパレードだった。

背が高く、ちょっと見ないような素敵なファッションに身を包んだ多くの女性は作品よりも目をひいた。(笑)

今回の「ラファエル前派展」は、シックで落ち着いた印象の女性が目立った。

イギリスを好む女性・・・ひとクセもふたクセもありそうだった。(苦笑)

そしてもう1つ同時開催されていた「アンディ・ウォーホル展」も行ったのだが。

これは良くも悪くも女性客はアメリカ的であったかと。

オシャレ度は・・・う~ん。シック度はゼロ。

まあ、ポップアートが好きなんだよね、的な?(笑)

美術展に行った時は女性鑑賞も実に楽しい。

(^^;