シブい聴衆の存在「寄席芸人伝」と「のだめカンタービレ」と。

古谷三敏の漫画で「寄席芸人伝」と言うのがある。

この中でいい加減な批評家達に嫌気がさしている若手芸人達の話がある。

名人が若手のために一芝居打つ。

批評家を集めて会見を開く。

名人に生き別れの母?子?がいるようなお涙頂戴話をでっち上げる。

神妙な面持ちで聞く批評家達。

批評家達が帰った後で弟子達に言う。

「次の寄席で私はワザと人情話を思い切りクサく演じる。
  
 この演技をクサいと言うヤツだけは本物だ。」と。

そして、思い切りクサく演じるが、
批評家達は新聞・雑誌などで全員がこの芸を絶賛する。

「そらみろ。オマエ達、批評家なんて気にするな。
 
 好きなように演じろっ!!」と名人は弟子達に言う。

その時、1人の老聴衆が名人に近付いて来て言う。

「おまえさん、この間の○×寄席の芸・・・・・酔ってなさったのかい???

 好きなおまえさんだけどアレはいただけないなぁ~・・・・・

 クサ過ぎるぜ。」
と言い残して行ってしまう。

「あ~言うお客さんが一番怖いんだ。」
と名人が言って話が終わる。

さて、この上記のようなお話を上手にさり気なく取り入れているのが、
のだめカンタービレ」だ。

「のだめ」のヨーロッパ編でまず登場するのが、
プラハの一市民の聴衆。

コンクールに落ちたと思っている千秋先輩にカフェで話しかける中年男性。

「アンタの指揮、素晴らしい。受かるよ。
 オレは母親のお腹の中にいた時からこのコンクールを聴き続けている。」と。

そして、最終決勝での見事な演奏場面にチラっと出てくるシブい聴衆。

続いて、映画の前編のパリのオーケストラの聴衆。

物凄いお爺さんの聴衆。

普段は指定席に陣取り眠るように聴いている。

しかし、久し振りの名演奏の時にカッと目を見開いて聴き入るシーン・・・・・

如何にもヨーロッパにいそうな年寄りである。

シブい聴衆・・・・・実に好きなタイプの男だ。

終わり


余談:映画前編にパリのつぶれそうなオーケストラのコンサートマスターが出て来る。

   偏屈で頑固そうな、しかし実力はピカ一の初老の男。

   これも好きなタイプの男だ。

   「のだめカンタービレ」には演奏会の面白さが凝縮している。