超マニアックな歌舞伎の話 : 数をヤる人達について
超マニアックな歌舞伎の話 : 数をヤる人達について
昔、今は亡き父と些細なことで口論になりました。
原因が何だったのかは分かりませんが、
映画の話で、父は「たとえ観た回数が少なくても深く観ていれば尊敬する」と主張したので、
私は「それは嘘だ」と言い返したら、
「例えば『カサブランカ』を何百回も観て深い考察をしていれば、
他の映画を全く観ていなくてもオレは尊敬する」との回答。
そこで私は、
「嘘を言うな。そんなヤツがいたら軽蔑するに決まっているだろう?
アイツは他の映画を全く観ていない、話にならないヤツ、と。
『通』だとかマニアとは数をヤっていない限り無理だ。
さらにその上で深い考察をしてこそだろう?」
と返したら黙ってしまいました。
まあ、今となっては原因も分からない口喧嘩でしたが、
私はここにはマニアの真髄が隠されていると今でも思っております。
歌舞伎座には現在でも4階一幕見席と言う、
他の劇場では類を見ないシステムが伝統的に存在しています。
これは一幕毎に区切って非常に安く観劇が出来るものです。
フルに通しで観ても4000円。
一幕ならば演目によって大きく違いますが、短いものなら500~1000円。
長いものでも1500~2000円くらいで観劇できます。
ちなみに座席が満席でも立ち見で観ることもできます。
何故このようなシステムがあるのか?と言いますと、
以前読んだ歌舞伎に関する歴史の本に書いてあったのですが、
(残念ながら出典を忘れている)
元々は江戸時代に出来た芝居小屋の関係者が、
近所の商店主などのために、
「いつもお騒がせしてすみません。
その代わり、幕見席で安くご観劇して下さい。」
と言う意味で作ったそうなのです。
すると当然、今のように交通機関が発達などしていませんから、
また、娯楽も少なかったため、
近所の人達は足繁く通うようになったのです。
こうなると、中には月に何回も通う人もざらに出てきます。
そういう人はいつの間にか「見巧者」となり、
役者や歌舞伎の出来不出来を完璧に見抜けるようになってしまったのです。
江戸時代の芝居関係者は劇が終わると密かに幕見席の客が集まる蕎麦屋に行って聞き耳を立てていたと言います。
彼らの意見でその月の興行や役者の出来不出来を判断していたらしいのです。
こういう見巧者達は現代の歌舞伎にも生きている「大向う(おおむこう)」となりました。
大向うとは3階席や4階席から「おとわやっ!!」とか「なりたやっ!!」とか声を掛けるアレです。
今でも「大向うを唸らせる演技」という表現が演劇好きの間には残っているかと思います。
ちなみに大向うは3、4階席のマニア客及びプロだけの特権です。
大向うと言う言葉も、元々は3階席正面を意味していましたが、
今の歌舞伎座は4階建てで一幕見席も4階になっています。
しかし後述する「会」所属のプロの大向うは3階席に出没します。
また1、2階の客が大向うを掛けるのは野暮とされています。
また女性が掛けてはいけないのも伝統的な暗黙のルールになっています。
この大向うと言う存在。
本格的な人達は「会」を作っていて、
歌舞伎座公認で、何と会所属の人達は3階席に限って入場料が免除されるのです。
ちなみにこれを「木戸御免」と言います。
どうやったらなれるのかと言いますと。
一幕見席や3階席で大向うを好きでやり始め、
熟練してくると何と現代の歌舞伎座でもスカウトが来るそうです。
会所属の人が、この人はよく見掛けるし上手だなと思うと、
「貴方も会に入りませんか?」と誘いが来るそうなのです。
歌舞伎は大向うがいないと劇として非常につまらないものに成り下がると感じています。
また伝統的に役者と劇場側と客が一体となって構成されているものです。
大向うは絶対にはずせない存在なのです。
会所属のプロの大向うの人の記事を読んだことがありますが、
はっきり言ってレベルが違います。
木戸御免になってからはほぼ毎日歌舞伎座に来ているようです。
特にお金がもらえるようでもないため、
その人は普通にサラリーマンをしていました。
平日は会社が終わり次第歌舞伎座に駆け付けて夜の部の後半に大向うを掛けるそうです。
休日は1日中歌舞伎座にいるそうです。
従って、歌舞伎公演のある日はほぼ全て来ているとか。
つまり1年365日のうち、歌舞伎興行は1ヶ月25日ですから、
ほぼ300日くらい歌舞伎座にいる、と。
よっぽど好きでないと務まらないかと。
ちなみによくよく聴いていると恐るべき知識を有しているのが分かります。
プロの大向うは3階席ですから当然花道の出入口は見えません。
しかし花道の幕がシャッと上がった音が聞こえると、
途端に「○×屋!!」と大向うが掛かります。
彼らプロは完璧にどの役者がどのタイミングで出て来るのかが≪見えなくても分かっている≫のです。
スゲ~連中だなと思っています。
さらに私事で恐縮ですが、
最近分かった事なのです。
私が生まれる前に亡くなっていた父方の祖父。
千代田区平河町生まれの職人でしたが、
趣味は歌舞伎で、長年歌舞伎座で大向うをやっていたと知りました。
休日になると歌舞伎座に通っていたそうです。
さらにさらに・・・私の父も大向うをやっていたと最近知りました。
言われてみると私が小学生くらいの頃、
酔うと盛んに何やら一人で喋っていたのですが、
今にして思うとアレは間違いなく歌舞伎の台詞でした。
演目によっては完全に暗記していたようです。
もちろん「会」所属のプロと言う訳ではないですが。
しかし、一幕見席から「音羽屋っ!!」とか「成田屋っ!!」とかを絶妙のタイミングで掛ける大向うは、
周囲の客すらも唸らせます。
上手い大向うは劇をとても盛り上げてくれます。
これは歌舞伎ならではの特別な存在だと思っております。
私はそんな血筋など知らないまま歌舞伎座の4階席に通っていました。
ヤるかな?と、たくらんでいます。(笑)
終わり
余談:
一番偉いのは桟敷席とか1等席で数をヤる人なのは言うまでもありません。(笑)
超余談:
先日、ブログに以前アップした我ながら傑作だと思っている歌舞伎座ヒエラルキー図をインスタグラムでもアップしたら、
目茶苦茶マニアな人からコメントが来ました。
「これは傑作です!木挽町広場に掲げておきたい!(笑)」と。
(^w^)(^w^)(^w^)(^w^)(^w^)(^w^)(^w^)
昔、今は亡き父と些細なことで口論になりました。
原因が何だったのかは分かりませんが、
映画の話で、父は「たとえ観た回数が少なくても深く観ていれば尊敬する」と主張したので、
私は「それは嘘だ」と言い返したら、
「例えば『カサブランカ』を何百回も観て深い考察をしていれば、
他の映画を全く観ていなくてもオレは尊敬する」との回答。
そこで私は、
「嘘を言うな。そんなヤツがいたら軽蔑するに決まっているだろう?
アイツは他の映画を全く観ていない、話にならないヤツ、と。
『通』だとかマニアとは数をヤっていない限り無理だ。
さらにその上で深い考察をしてこそだろう?」
と返したら黙ってしまいました。
まあ、今となっては原因も分からない口喧嘩でしたが、
私はここにはマニアの真髄が隠されていると今でも思っております。
歌舞伎座には現在でも4階一幕見席と言う、
他の劇場では類を見ないシステムが伝統的に存在しています。
これは一幕毎に区切って非常に安く観劇が出来るものです。
フルに通しで観ても4000円。
一幕ならば演目によって大きく違いますが、短いものなら500~1000円。
長いものでも1500~2000円くらいで観劇できます。
ちなみに座席が満席でも立ち見で観ることもできます。
何故このようなシステムがあるのか?と言いますと、
以前読んだ歌舞伎に関する歴史の本に書いてあったのですが、
(残念ながら出典を忘れている)
元々は江戸時代に出来た芝居小屋の関係者が、
近所の商店主などのために、
「いつもお騒がせしてすみません。
その代わり、幕見席で安くご観劇して下さい。」
と言う意味で作ったそうなのです。
すると当然、今のように交通機関が発達などしていませんから、
また、娯楽も少なかったため、
近所の人達は足繁く通うようになったのです。
こうなると、中には月に何回も通う人もざらに出てきます。
そういう人はいつの間にか「見巧者」となり、
役者や歌舞伎の出来不出来を完璧に見抜けるようになってしまったのです。
江戸時代の芝居関係者は劇が終わると密かに幕見席の客が集まる蕎麦屋に行って聞き耳を立てていたと言います。
彼らの意見でその月の興行や役者の出来不出来を判断していたらしいのです。
こういう見巧者達は現代の歌舞伎にも生きている「大向う(おおむこう)」となりました。
大向うとは3階席や4階席から「おとわやっ!!」とか「なりたやっ!!」とか声を掛けるアレです。
今でも「大向うを唸らせる演技」という表現が演劇好きの間には残っているかと思います。
ちなみに大向うは3、4階席のマニア客及びプロだけの特権です。
大向うと言う言葉も、元々は3階席正面を意味していましたが、
今の歌舞伎座は4階建てで一幕見席も4階になっています。
しかし後述する「会」所属のプロの大向うは3階席に出没します。
また1、2階の客が大向うを掛けるのは野暮とされています。
また女性が掛けてはいけないのも伝統的な暗黙のルールになっています。
この大向うと言う存在。
本格的な人達は「会」を作っていて、
歌舞伎座公認で、何と会所属の人達は3階席に限って入場料が免除されるのです。
ちなみにこれを「木戸御免」と言います。
どうやったらなれるのかと言いますと。
一幕見席や3階席で大向うを好きでやり始め、
熟練してくると何と現代の歌舞伎座でもスカウトが来るそうです。
会所属の人が、この人はよく見掛けるし上手だなと思うと、
「貴方も会に入りませんか?」と誘いが来るそうなのです。
歌舞伎は大向うがいないと劇として非常につまらないものに成り下がると感じています。
また伝統的に役者と劇場側と客が一体となって構成されているものです。
大向うは絶対にはずせない存在なのです。
会所属のプロの大向うの人の記事を読んだことがありますが、
はっきり言ってレベルが違います。
木戸御免になってからはほぼ毎日歌舞伎座に来ているようです。
特にお金がもらえるようでもないため、
その人は普通にサラリーマンをしていました。
平日は会社が終わり次第歌舞伎座に駆け付けて夜の部の後半に大向うを掛けるそうです。
休日は1日中歌舞伎座にいるそうです。
従って、歌舞伎公演のある日はほぼ全て来ているとか。
つまり1年365日のうち、歌舞伎興行は1ヶ月25日ですから、
ほぼ300日くらい歌舞伎座にいる、と。
よっぽど好きでないと務まらないかと。
ちなみによくよく聴いていると恐るべき知識を有しているのが分かります。
プロの大向うは3階席ですから当然花道の出入口は見えません。
しかし花道の幕がシャッと上がった音が聞こえると、
途端に「○×屋!!」と大向うが掛かります。
彼らプロは完璧にどの役者がどのタイミングで出て来るのかが≪見えなくても分かっている≫のです。
スゲ~連中だなと思っています。
さらに私事で恐縮ですが、
最近分かった事なのです。
私が生まれる前に亡くなっていた父方の祖父。
千代田区平河町生まれの職人でしたが、
趣味は歌舞伎で、長年歌舞伎座で大向うをやっていたと知りました。
休日になると歌舞伎座に通っていたそうです。
さらにさらに・・・私の父も大向うをやっていたと最近知りました。
言われてみると私が小学生くらいの頃、
酔うと盛んに何やら一人で喋っていたのですが、
今にして思うとアレは間違いなく歌舞伎の台詞でした。
演目によっては完全に暗記していたようです。
もちろん「会」所属のプロと言う訳ではないですが。
しかし、一幕見席から「音羽屋っ!!」とか「成田屋っ!!」とかを絶妙のタイミングで掛ける大向うは、
周囲の客すらも唸らせます。
上手い大向うは劇をとても盛り上げてくれます。
これは歌舞伎ならではの特別な存在だと思っております。
私はそんな血筋など知らないまま歌舞伎座の4階席に通っていました。
ヤるかな?と、たくらんでいます。(笑)
終わり
余談:
一番偉いのは桟敷席とか1等席で数をヤる人なのは言うまでもありません。(笑)
超余談:
先日、ブログに以前アップした我ながら傑作だと思っている歌舞伎座ヒエラルキー図をインスタグラムでもアップしたら、
目茶苦茶マニアな人からコメントが来ました。
「これは傑作です!木挽町広場に掲げておきたい!(笑)」と。
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