冬の星の思い出

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毎年毎年この季節になると思い出す。

小学生だった私は寝る前になると聞こえてくるカーンカーンという拍子木の音に興味を持っていた。

一体どんな人が鳴らしているのだろう?と、ずっと思っていた。

それからしばらくして私は小さな天体望遠鏡を手に入れた。

キーーーーーンと冷えた冬の都会の夜。

私は家の近くならばと許されて、天体望遠鏡で星を眺める冬休みの日々を過ごしていた。

オリオン座が高く昇って来た頃、カーンカーンと拍子木の音が近づいて来た。

私は初めて夜警の人を見ることができた。

乾ききった空気の中に響き渡る独特の音を残して彼らは去って行った。

ふと気付くと母が「さあ、もう家に入りない」と外に出てきた。

いつの間にかかじかんでいた私の手。

温かい家の中に入り、私はちょっと興奮しながら布団に潜り込んだ。

目を閉じると浮かんでくるのはシリウスベテルギウス、リゲル、プロキオンの輝き。

そして聞こえてくるのは拍子木の音。

あれから何十年もの歳月が流れている。

夜道を歩いている時、ふと上を見上げる。

もういい年をしているというのに冬の星を見るとまだワクワクしている自分に気づき苦笑してしまう。

あの時と比べると遥かに高度な機材を使いこなしている。

しかし、根っこのところは何一つ変わっていやしないのだ、と思う。

今でも私は冬の星を見るといてもたってもいられなくなるのだ、と。

終わり


https://youtu.be/sJutCYdq0mc