「黒いスイス」
福原直樹著。新潮新書。本体680円(税別)
最近、スイスに関する記事をブログとフェイスブックにアップしたら、
元カノ(笑)が上記の本を勧めて来たので読んでみた。
一般的には牧歌的な観光立国と言うイメージの強いスイスの暗部について書いた書籍だ。
主な内容としては、第二次世界大戦前から戦中に行なわれていた、
スイスのユダヤ人への酷い扱いや、あるいはロマ族(ジプシー)の子供の国家的な誘拐。
核兵器の開発、移民への扱い、マネーロンダリング等々、
かなりショッキングな内容が並んでいる。
私的な感想としては、この本は前提をしっかりと把握してから読む必要があると言う事実だ。
それは「正確な時期」を常に把握しないととんでもない事になってしまう点だ。
黒いと言うタイトルを付けたからには、
相当酷いイメージを読者に抱かせてしまう。
まして読者は戦後民主主義にどっぷりと浸かっている日本人だ。
「国家」「軍事」と言う思考を70年間避けて来た日本人にとっては、
下手をするとこの本は逆差別本に成り下がる可能性すらある。
この本が出版されたのは2004年であり、
書かれている時代はスイスの昔の歴史から大戦中、戦後、と様々な年代が交錯している。
一体これは何時の話なのか?について常に念頭に置いておくべきだ。
少なくとも、どんなに新しいと思われる話でも、今から15年以上は昔の話で、
いいとこ80~90年代の話となる。
ほとんどはソレ以前の話だ。
しかし、書いてある事はショッキングで、
スイスと言う国は如何にして国家を存続させて来たのかが良く理解出来る。
では先ず最初に大戦中に行なわれていたユダヤ人への非人道的な扱い、
ロマ族の子供の誘拐、移民についての私的な意見を述べてみたい。
先ず、ユダヤ人やロマ族への扱いは、大戦まではヨーロッパ中でかなり酷かったと言うのが実態だったと思う。
ナチスのやった事はとんでもない事であるが、
ヨーロッパ人とは、私的にはそもそも自己完結型の人間が多いと感じている。
自己完結型とは「自分こそが一番であり、それ以外はダメ」と言う優越感を持った国の集合体だと言う感覚だ。
ヨーロッパ諸国は、ほぼ全て、そのような考えを持って(もちろん個人的な例外は多々あるが)、
白人同士の国でジャレあって貶し合って、時に戦争していた歴史を持つ。
従って非白人を奴隷にしたり虐殺したり、
とんでもない歴史を持った国の集合体と言える。
そして戦後どころか比較的最近までかなり差別的であったと言える。
現在でも移民排斥問題としてそれは続いている。
スイスは移民の受け入れにかなり厳しい国だ。
しかし、安易にそれを非難するのは危険だ。
国の規模が全く違うからだ。
スイスの国土は九州くらいで人口は800万人くらいしかいない。
ヨーロッパの大国と同じ規模の移民受け入れなどは絶対に出来る訳はない。
かなり汚い手法で移民や帰化を認めない。
それが国を守ると言う事だと私は感じる。
ヨーロッパは陸続きなので移民の問題は各国ともかなりナーバスに扱う。
けれども日本人は恐ろしく無邪気に扱う。
戦後民主主義的考えの中でも移民問題に対するものは愕然としてしまう。
そもそも日本は海に囲まれて、ほぼ全員が日本語を話す単一民族であるため、
それが戦後民主主義と相俟って「ニコニコしていれば問題は起きない」と考えてしまう。
だから恐ろしく無責任で無邪気な意見を堂々とテレビでも発言する「専門家」すら出て来てしまう。
昔、バブル時代。
金を手にした日本人は世界を旅し始めた。
国際化の時代だ、と無邪気に叫び始めた。
ある有名作家はテレビ番組で自らのアメリカ体験をベースにして、
「日本は移民をどんどん受け入れるべきだ。一度この体制を壊すべきだ」と本気で主張していた。
そして労働力不足のため、日本政府もこのような意見に押されるような形で?、
某国のビザ免除をしてしまった。
どうなったのか。
大量の某国人が日本に押し寄せ、一時期、桜で有名な東京の某所は某国人で埋め尽くされた。
職にあぶれた人は犯罪に手を染める。
最初は違法テレカなどを売っていたが、そのうちに薬、場合によると武器の密輸などもやり始めた。
移民問題の恐さとはここにある。
迂闊に大量の外国人を受け入れた場合、
不法滞在が横行し、職につけないものは犯罪に手を染め、
放置していたら、それはどんどんと広がり外国人居住区を作り始める。
迂闊に許して行ったら日本の警察力すら介入が難しくなる事態となる。
移民の問題に慣れていなかった日本人は初めて大量にやって来る外国人の恐さをこの時目の当たりにした。
そもそもが移民で成り立っている国であるアメリカなんかを参考にしては絶対にならない。
移民の迂闊な受け入れは国家の存続そのものを危うくする非常に危険な問題だと認識すべきである。
だからこそ、ヨーロッパの国々はとてもナーバスにこの問題を扱う。
時に厳格に受け入れを拒否もする。
スイスは小国故にとても厳しいのは当然の事とも言える。
続いてスイスの核兵器の開発についてだ。
スイスは永世中立国家であるが故に、徴兵制をもったハリネズミのような国家と言える。
世界で唯一の被爆国である日本は、核武装の問題を「悪」としか捉える事は出来ない。
しかし現実は核武装している国はかなりある。
何故核武装するのかと言えば、軍事的に政治的に有利になるからだ。
スイスが永世中立国家として存続するために、
核武装を検討していたのは当然と言えば当然の経緯とも言える。
けれども、この本の筆者と同様に、多くの日本人は軍事を冷静に考えられないため、
「酷い国」と無邪気にも言ってしまう。
核武装の選択は軍事を考える上で、非常に重要な問題だ。
するにせよ、しないにせよ、その国の命運を大きく分ける重大な問題なのに、
残念ながら私達日本人は議論以前の問題で激しいアレルギー反応を起こしてしまうのが実態だ。
スイスはとても真摯に軍事について考え、実行して来ている国だと感じた。
もちろん、軍事は人間の最も醜い部分を扱う行為故、調べれば調べるほど、
人によっては正視すら出来なくなるかも知れない。
しかし逃げる事は許されない問題であると私的には認識している。
最後にマネーロンダリングの問題について触れてみたい。
スイスの銀行と言えば顧客の秘密は絶対に守ると言う印象を今でも持っている人は多いと思う。
だが、それは過去の話だ。
昔は犯罪に関わるお金も平気で受け入れていたため、
非難が集中し、法改正が行われ、今ではほとんど姿を消している。
とは言え、お金にまつわる事なので何もスイスに限らず、
日本でもアメリカでも他多くの国でも銀行の不祥事はこれからも必ず起こるはずだ。
この「黒いスイス」と言う本。
日本は今後どうあるべきなのか?と考える場合、
冷静に読めばとても参考になる良書だと思う。
終わり