「麗子ちゃんと見えない壁」

私が幼稚園児だった頃、
近所(西麻布4丁目)に「麗子ちゃん」と言う可愛い女の子がいた。

麗子なのか玲子なのか礼子だったのかは分からない。

とりあえず麗子を使用する。

麗子ちゃんの名前は大人達の会話の中にもたまに挙がっていた。

「あ~あの麗子ちゃんがヴァイオリンの発表会で・・・・・」と言った感じで。

私は麗子ちゃんと遊んだ事は一度もない。

それどころか顔を見た事が数回ある程度だった。

西麻布4丁目の裏にあった大きな家に暮らしていた。

麗子ちゃんを見たその数回は全て自動車の中にいた姿だった。

高級外車だったように思う。

それがロールスロイスだったのかメルセデスだったのかは幼い私には分からなかった。

ベレー帽を被り、常に高級外車の後部座席に座っていた可愛い女の子、麗子ちゃん。

麗子ちゃんは決して近所の子とは遊ばなかった。

私は可愛い麗子ちゃんと友達になりたかった。

けれども、幼いながら「見えない壁」を感じていた。

恋心を抱く事すら許されない強靭な「見えない壁」。

いわゆる良家の子女。

先日、久しぶりに生まれ故郷の西麻布4丁目を歩いていた。

私の近くを通り過ぎて行った高級外車にドキッとした。

終わり